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最高裁判所第三小法廷 昭和58年(行ツ)28号 判決

愛知県海部郡大治町大字砂子字千手堂七〇四番地

上告人

栗田直明

右訴訟代理人弁護士

安藤公爾

吉住健一郎

愛知県津島市良王町二丁目三一番地一

被上告人

津島税務署長

星野正之

右指定代理人

亀谷和男

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和五六年(行コ)第一七号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五七年一二月二一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人安藤公爾、同吉住健一郎の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、上告人が、租税特別措置法(昭和五〇年法律第一六号による改正前のもの)三七条四項の規定により被上告人が認定した日である昭和五一年一二月三一日までに所論買換資産の取得をしたということができず、また、被上告人が本件各処分をしたことが権利の濫用若しくは信義誠実の原則に反するともいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 長島敦)

(昭和五八年(行ツ)第二八号 上告人 栗田直明)

上告代理人安藤公爾、同吉住健一郎の上告理由

一、原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背がある。

第一点

原審は、租税特別措置法(以下、措置法という)三七条にいう「資産の取得の日」とは「注文者の所有または使用する土地の上に請負人が材料を全部提供して建築した本件のような買換資産については、特段の事情(工事完成と同時に右資産の所有権が注文者に帰属するという明示もしくは黙示の合意の存在等)のない限り、注文者が請負業者から当該資産の引渡しを受けた日を指称すると解するのが相当である。」と解し、「本件請負契約について、特段の事情は認められない。」と判断したものである。しかしながら、右判断は次の事情により破棄を免がれない。

(一) 上告人が買換資産取得の為、訴外株式会社西里工務店(以下、訴外西里工務店という)との間で昭和四八年一二月三〇日本件建物建築請負契約を代金三、一〇〇万円、完成昭和四九年五月三一日、引渡し完成後一〇日以内との約定で締結したことは原審判断のとおりである。右工事代金の内、金二、一〇〇万円が支払い済みであることは、乙第二号証により明らかである。すなわち、上告人は、措置法三七条の適用を受けるため、所定の期間内に買換資産を取得する為に右請負契約を締結し、契約金の内三分の二以上に当る金二、一〇〇万円の支払いをしたのであるが、訴外西里工務店が契約目的に従った内容の工事をしなかったことにより、現に名古屋地方裁判所昭和五一年(ワ)第八二三四号事件(昭和五一年四月提訴)に於て審理中のものである。

(二) すなわち、上告人は、工事が完成し、契約目的に従った建物が建てられたとすれば、残金について支払いをなす用意あるのであるが、未だ、契約目的を達する建物に至っていない為、残金の支払いがなされていないにすぎない。上告人は措置法三七条所定の期間内に買換資産を取得する為、前記契約をすでに締結し、契約金の三分の二以上に相当する金員も支払っており、この様な場合、上告人の責に帰すべき特段の事情でもない限り、上告人は措置法三七条所定の資産を取得したものというべきである。

第二点

被上告人の上告人に対して行った昭和四八年分、昭和四九年分の各所得税についてした更正及び加算税賦課決定は、いずれも権利の濫用もしくは信義誠実の原則に違反し許されない。

(一) 原審は、上告人が「昭和五一年五月以降被上告人の所属の職員に対して、措置法三七条に定める特例の適用を求めて折衝を重ね、その過程では本件建物について、建築請負契約の履行をめぐって請負人の西里工務店との間に損害賠償等請求の民事訴訟事件が係属しており、いつ決着するかわからない旨説明しながら、他方で同年六月一二日受付で表示登記を経由したうえ、同年一二月三一日までにこれを取得する見込みがあるとして同条四項かっこ書に基づく取得期限の延期申請をし被上告人の承認を得た(この点は当事者間に争いがない。)こと、その後も被上告人の所属の職員が民事訴訟の見通しなどを含め、右延長期限までの本件建物の取得見込みについて問い合わせたのに対して、上告人は、民事訴訟の動向がわからないからその決着のつくまで措置法三七条に定める特例の適用に関する処理を待ってくれるか、もしくは係争中としての損失査定をしてくれるようにと応答したこと。」を認定している。

(二) 上告人としては、措置法三七条の適用もしくは資産損失の必要経費算入について、被上告人に対し、その指導もしくは指示を求めていたのであり、この様な場合、「資産損失の必要経費算入」の件につき何ら指導もしくは指示を与えることなくなされた本件課税処分は、権利の濫用もしくは信義誠実の原則に違反し許されない。

(三) 仮に、「資産取得の日」を原審の様に解するとしても、右は理則であり例外を許さないものではない。本件では、訴外西里工務店が上告人に対し、買換資産の引渡しを拒んでおり原審は、「上告人、本件建物の敷地の地代を昭和四九年一月以降現在まで支払っていること、上告人は西里工務店から本件建物の鍵を渡されなかったが、合鍵を作って本件建物に立ち入り、本件建物の一階一部分を暫定的に印刷用の紙類等の置場として使用していること、上告人は昭和五三年一月ころから本件建物の電気料金の支払いをしていること」との事実を認定しており、右事実からすれば、一応、上告人は買換資産を取得使用していたと解されるのである。

以上

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